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歯科難症例治療システムとしてのコーヌステレスコープ 詳細編

このページは、『歯科難症例システムとしてのコーヌステレスコープ:概略編』の続編です。ぜひ先に『概略編』をお読み下さい。『概略編』はここをクリックして下さい。

システムとしてのコーヌス テレスコープの詳しい手順

 概略編でもお書きしましたように、コーヌス テレスコープは通常、義歯の一方法としてのみ、とらえられています。しかし私ども森本歯科医院では、たくさんの症例を経験させていただいているうちに、単なる入れ歯の方法から発展して、『歯のほとんど、あるいは全部がガタガタ・グラグラ』といった難症例の患者様に対して、歯周病・根管治療・噛み合わせの再構築等の治療を同時並行的に進めさせていただく総合的・包括的な治療法へと進化してまいりました。もちろん、治療完了後は、コーヌスの最大の長所である噛みやすさ、見た目の良さ、長期的なメンテナンスの良さが充分に発揮されます。
 つまり単なる入れ歯の方法から発展して、歯科の難症例をできるだけ抜歯することなく適切に治療し、10年、20年といった長期にわたって安定してお使いいただける総合的な歯科治療技術へと進化してきたわけです。

 『システムとしてとらえたコーヌス テレスコープ』の治療手順をさらに細かく解説させていただくと……、

  1. いわゆるガタガタ・グラグラの歯を救うための数本単位の仮クラウンの作製。可能ならば、旧義歯との連結。
  2. まず必要な部分の根管治療。
  3. 歯周病の初期治療。
  4. 部分ごとに作製した仮クラウンを連結して、コーヌスタイプの着脱式の仮クラウン(コーヌステック)に作り替える。(必要に応じて仮義歯を作製。仮クラウンと連結)
  5. 歯周病の徹底治療。
  6. コーヌス テレスコープ義歯作製のために必要な歯の根管治療。
  7. 必要に応じて、噛み合わせの改善。
  8. 仮クラウン・仮義歯としてのコーヌステックの完成。噛みやすさ・見た目等のご要望を、患者様にご確認。
  9. 完成義歯としてのコーヌス テレスコープ義歯の作製、装着。一通りの治療の完了。
  10. 10年、20年、さらにはそれ以上の長期メンテナンス。
  11. 症例によっては、総義歯への作り替え。その後の長期メンテナンス。

といった手順となります。
 もっと詳しく申し上げれば、まず1.2.3.を同時並行的に進めて、歯周病や咬合力(こうごうりょく:噛み合わせの力)によって『ガタガタ・グラグラ』になっている状態、あるいは『ガタガタ・グラグラ』のせいで噛めない状態を解消したのち、4.5.6.7.を同時並行的に進めて、さらに良好な状態へと改善してまいります。
 4.5.6.7.で充分に良好な状態へと改善したのち、完成したコーヌステックでの噛みやすさ・見た目等の患者様のご感想・ご要望を充分にお伺いした上で、それを完成義歯としてのコーヌス テレスコープ義歯にできるだけ活かすようにして、一通りの完成を目指してまいります。
 コーヌス テレスコープ義歯をお入れしたあとは、調整のために3~5回ほどご来院いただいていったん終了となり、その後は、10.11.の定期的なリコールにお越し頂いての長期メンテナンスに入ってまいります。

コーヌステックおよびコーヌステレスコープ義歯作製の詳細な実例 74歳 男性

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 入れ歯が不安定で噛めない、もっと安定的に噛めるようにしてほしい、ということでご来院下さいました。クラスプ(金属バネによる留め具)がかかっていますが、義歯全体が不安定であるがゆえに、咬合高径(こうごうこうけい:噛み合わせの高さ)が下がってきていて、下の前歯が見えなくなっています。 歯の数としてはある程度残っていますが、歯周病もあって、噛めない・噛みにくいといったクラスプ義歯の典型例です。

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 少し口を開いていただきました。 クラスプ義歯の場合、よほど安定的な設計にしておかなければ、噛む力によって義歯が沈下するばかりでなく、位置も少しずつずれてきたりします。
 義歯の左上の部分の位置がずれてしまった結果として、緑の丸印でお示しした部分に、隙間が空いていることが分かります。義歯がずれようとして、歯を動揺させてしまっていることも、よくあります。

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 上顎の入れ歯です。 緑の丸の部分に、追加修理をした痕跡が認められます。おそらく、元々ここにあった歯が、噛み合わせの沈下や、入れ歯から受ける力によって動揺させられ、抜歯せざるを得なくなり、追加修理したものと考えられます。
 しかし噛み合わせの力を緩めることはできませんから、上の写真のように、噛み合わせがさらに沈下し、義歯の位置もさらにずれて、隙間が空いてきたものと想像できます。

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 下顎の入れ歯です。 よく見かけるタイプのクラスプ義歯ですが、これでは噛みしめるたびに入れ歯が微妙に動くので、充分に噛むことはできません。 入れ歯が動かないようにしようと思えば、クラスプ(金属バネによる留め具)を丈夫にするとともに、数をもっと増やすしかありませんが、違和感や審美性は大きく損なわれます。

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 まず、入れ歯の安定化を図り、少しでも噛みやすい状態を目指して、コーヌステック化を始めました(緑の丸で示したところです)。どこから始めるのが最も効果的で、要領が良く、安定的であるのかを充分に考えておく必要があります。この手順を間違えると、患者様に不自由な思いをしていただくことになりますし、残せるはずの歯が残せなくなったりもします。正しい手順をいかにして選んで、きちっと実践できるのかという点には、かなりの経験と高度な技術が必要です。

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 上顎の旧義歯を、コーヌステック化し始めたところです(緑の丸で示したところです)。上顎前歯4本は、すでにクラウンをかぶせてあって、根管治療や支台築造に大きな問題がなく、少しの補修でそのまま使えそうだったので、ここから始めることにしました。この判断には、噛み合わせの低下によって、上顎前歯が下顎前歯に突き上げられ、動揺していたことを早期に改善する目的もありました。したがって、歯冠長(歯の長さ)は少し短めに設定しました。

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 下顎の旧義歯を、コーヌステック化し始めたところです。上顎と同様、コーヌステック化しやすく、効果的であるところから始めるという考えのもと、緑の丸でお示しした、犬歯と第一小臼歯から、コーヌステック化しました。これは、この部分から始めることが、この旧義歯を安定させるために、もっとも効果的であると考えたことが判断基準となっております。

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 上顎旧義歯のさらなるコーヌステック化です。これまでの処置で何も不都合が起きていないこと、むしろ以前よりも改善したことなどを患者様に確認させていただいた上で、取りかかりました。今後は、より高度な安定性を求めると同時に、丈夫さや、最終仕上げに向けての細かな細工や、歯周病的な安定を目指すことに、徐々に移行していくことになります。

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 下顎の旧義歯のさらなるコーヌステック化です。緑色の丸で示した下顎前歯は、歯周病のためにある程度の動揺がありましたので、それを抑えるためと、コーヌステックとしての噛みやすさや安定性の早期の向上を図る意味で、この部分を優先しました。コーヌステック自体の丈夫さを考えれば、黄色の丸で示した部分を優先した方が有利だったのですが、それだと下顎前歯だけが取り残されて噛み合わせの力が強くかかり、動揺がひどくなってしまう恐れがあったので、後回しにしました。

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 上顎のコーヌステックが完成したところです。初診から、約3カ月経過しています。治療のたびに、前回治療させていただいたところの異常の有無はもちろんのこと、全体的な安定性や噛みごこちを始め、さまざまなご感想やご要望をお聞きしてあります。改善できるところはできるだけ改善してありますが、旧義歯を元にしているがゆえに、改善できない部分もあります。この場合は、緑色の丸で示した、口蓋の連結バーの違和感が強いとのことでしたので、完成義歯には付けないでおくことにしました。

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 下顎のコーヌステックが完成したところです。初診から、約4カ月経過しています。上下のコーヌステックが完成した時点からは、完成義歯としてのコーヌステレスコープ義歯をどのような形にお作りすれば患者様にご満足いただけるのか、を考えていくことが最重要事項となります。さまざまなことをお伺いしながら、患者様のご要望を完成義歯としてのコーヌステレスコープ義歯に活かすべく、より良い設計を考えていきます。

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 完成した上下のコーヌステックを裏側から見たところです。左が上顎、右が下顎です。歯と歯ぐきにピッタリと合わせてあるので、簡単に外れることもなく、また咀嚼するたびにわずかに上下動しますので、歯肉のマッサージ効果もあります。(これについては、『コーヌステックが歯の保存に効力を発揮するメカニズム』をご参照下さい)私ども森本歯科医院では、コーヌステックの完成時には、必ず全体を合わせ直しますので、上記の治療用義歯としての意味合いがより強くなって、歯周病がかなり効果的に改善してまいります。

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 完成した上下のコーヌステックを口腔内に装着したところです。 この時点で、個々の歯に問題点がないことを確かめた上で、最終義歯としてのコーヌステレスコープ義歯作りに進んでいきます。

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 個々の歯を形成した状態です。コーヌステックによる歯の連結固定効果に加えて、歯周病に対する効果的な治療も行えますので、この時点までに、動揺していた歯はずいぶん改善しています。
 この症例では、何本かの歯はすでに根管治療が施されていて、金属の支台(コア)が入っていましたが、コーヌステレスコープに必須の平行性が考慮されていませんでしたので、必要な歯にはレジンコアを接着・補修することで、平行性を確保しました。

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 内冠を装着した状態です。 この症例は、根管治療を必要とする歯が少なく、旧義歯が利用できたこともあって、比較的早期に、最終目的であるコーヌステレスコープ義歯の作製に移ることができました。

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 完成義歯としてのコーヌステレスコープ義歯です。
 左が上顎、右が下顎です。コーヌステレスコープ義歯は、構造的にもともと丈夫なので、違和感の原因となる上顎の連結バー類は、あまり付ける必要がありません。(残っている歯の本数、あるいは使用する歯の本数によります)

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 完成義歯としてのコーヌステレスコープ義歯を裏側から見たところです。
 緑の丸で示した義歯床の部分は、この時点では少し大きめに作ってあります。小さすぎる義歯床では、装着当初こそ違和感が少なくて患者様は喜ばれますが、いつまでたっても充分に噛むことができません。少し大きめである方が、最終的にはよく噛むことができるようになります。ですので、しばらく使っていただいて、支障があるようであれば、小さくしていきます。

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 完成義歯としてのコーヌステレスコープ義歯を、実際に装着したところです。
上下の前歯の見え方の配分も良好で、この症例としては、形・色とも、ほぼ理想的な状態にお作りすることができたと思っております。このあと、噛む力によるコーヌステレスコープ義歯の全体的な沈下が起こりますので、数週間の観察・調整を経て、安定してよく噛める状態になっていきます。

コーヌステックが歯の保存に効力を発揮するメカニズム

 コーヌステックによって、なぜ歯の動揺が収まってくるのか? そのメカニズムについても、簡単に解説させていただきます。
 私ども森本歯科医院では、コーヌステックによって歯の動揺が収まってくる理由として、二種類のメカニズムが働いていると考えております。

 一つ目は、『過剰・不適切な咬合力(噛み合わせの力)の排除と力学的な安定性』です。二つ目は、着脱式であるがゆえの『自浄性および歯肉のマッサージ効果』です。
 一つ目の『過剰・不適切な咬合力(噛み合わせの力)の排除と力学的な安定性』は、一般の方にでも分かっていただきやすいと思います。つまり、できるだけ多くの歯を連結して力を分散してやることで、個々の歯に集中して力が加わることをなくした結果、歯の周囲の骨が回復してきて動揺が収まってくるわけです。

 次に、二つ目の『自浄性および歯肉のマッサージ効果』について解説しますと……。
 下図のように、コーヌステックは、歯に固定されていないがゆえに、咀嚼するたびにミクロン単位の微少な上下運動が起きます。その結果として、唾液等の口腔内の水分が吸い込まれたり吐き出されたりするポンプ作用が起き、自然にプラーク(歯垢)が除去できますし、コーヌステックの上下動による歯肉のマッサージ効果もあると考えております。
 このことによって、歯の周囲の清潔さが保たれ、歯周病による歯肉の炎症が劇的に減少してまいります。歯肉の炎症が少なくなれば、歯周ポケットに隠れている歯石や汚れも除去しやすくなり、歯周病治療が相乗的な効果を発揮して、ますます良好な状態へと改善してきます。

 

噛むたびにコーヌステックが沈み込み、緑の矢印で示したように、水分が吐き出され、自浄性が発揮されます。   また、コーヌステック全体の上下動によるマッサージ効果も、期待できます。 噛むたびにコーヌステックが沈み込み、緑の矢印で示したように、水分が吐き出され、自浄性が発揮されます。
 また、コーヌステック全体の上下動によるマッサージ効果も、期待できます。

 こうした二つのメカニズムによって歯の状態を改善させることで、抜歯する必要性はうんと低くなります。たとえば、最初が50%の安定度の歯があったとします。コーヌステックによる安定化を図らないで無理な力が加わったままで、歯周病の治療効果も上がらなかったとするならば、その歯はさらに悪くなって、たとえば30%程度の安定度に落ちていくに違いありません。

 一方、コーヌステックがもたらす二つの改善メカニズムによって、歯の安定化が図られ、たとえば70%の安定度にまで改善したとするなら、その歯は充分にコーヌス テレスコープ義歯の支台歯として使うことができます。

 私ども森本歯科医院といたしましては、コーヌステックによってある程度でも改善できた歯なら、コーヌステレスコープ義歯の支台歯として使える、というイメージを持っております。 経験的に、コーヌステックをお使いいただいている時よりも、完成義歯としてのコーヌス テレスコープ義歯を装着してしまった後の方が、さらに個々の歯が安定してくることが分かっていますので、ある程度でも安定してきた歯なら、少なくとも義歯完成後の数年間は悪化しないだろうと判断できるからです。 しかも、コーヌス テレスコープ義歯は完成後のメンテナンス性も非常に優れていますので、弱った歯を無理して使ってもしも何年かたって悪くなってきたとしても、自然脱落、あるいは抜歯して簡単な修理をするだけですみますし、義歯の性能はそれまでとほとんど変わりませんので、ある程度の冒険をすることができるわけです。

システムとしてのコーヌス テレスコープの進化の歴史

 ほとんど全部の歯科医師には、仮クラウン(テック)は仮着材で歯に仮固定しておくものという考えしかありません。私どもも若い頃にはその考えしかなく、多数歯のテックでも仮着材で仮固定していました。しかし、治療のたびにそれをはずすのも結構手間がかかりますし、多数歯の場合には、はずす時の力でテックが折れてしまうこともあります。また、アシスタントに仮着材をはずさせておくにも、かなりの時間がかかります。そのようなことで、テックを仮固定しておくことには、多くの問題点があると思っていました。

 そんな時、ある患者様のテックが自然脱落していました。1週間ほど前にはずれたとのことでしたが、ご自分の判断で着脱式としてお使いになり、不自由もなかったとのこと。歯周病の指標となる歯肉の炎症もなくなっていて、非常に良好な状態でした。

 それを契機に、テックは必ずしも固定しなくてもいいのではないかという考えを持ち、少しずつ発展させてまいりました。着脱式にしておけば、こちらとしての手間もかからず、ご自身で日に数回はずして充分な歯磨きをしていただけるので、特に歯周病には劇的な効果があります。また、旧義歯と連結して使うことも可能となりますので、安定した噛み合わせを早期に再構築することもできます。

 さらにコーヌステックは、完成義歯としてのコーヌス テレスコープ義歯の簡易版・プロトタイプ(原型)という側面もありますので、完成義歯のイメージもして頂きやすく、ご感想・ご要望などを、完成義歯に反映させやすいといったメリットもあります。

 このようなことから、私ども森本歯科医院でのコーヌス テレスコープは、難症例に対するシステマティックな治療法としての技術・考え方へと少しずつ進化し続け、

  1. 歯をできるだけ抜かずに早期に食事ができるようにし、
  2. 1本ずつの歯を着実に治療しつつ、歯周病の治療や咬合の再構築も行え、
  3. コーヌス義歯の完成後は、よく噛めて見た目もよく、
  4. 虫歯や歯周病の悪化を防ぎつつ、
  5. 10年後、20年後までもメンテナンスが可能で、総義歯にまで改造可能な、『一口腔単位の包括的治療』『総合一貫治療』のノウハウへと発展してまいりました。

 着脱式・可撤式のコーヌステックをやり始めたのは、もうずいぶん昔のことになりますが、これによって私ども森本歯科医院の治療のレベルがずいぶん向上したことは間違いございません。
 以上のように、私ども森本歯科医院における着脱式・可撤式のコーヌス テック技術は本来、コーヌス テレスコープ義歯をうまくお入れするために、事前に状態を改善しておくための一つのテクニックとして考案し、発展させてきたものです。ですので、コーヌス テレスコープ義歯を前提とした治療でその真価を発揮しますが、今現在では、クラウンやブリッジを目指して長期の治療を行わなければならない場合にも、かなり有効な方法として使わせていただいております。

 治療後のアンケートにおきまして、私ども森本歯科医院での治療結果に100%近いご満足いただけている大きな要素として、このコーヌス テックの技術や考え方があることは間違いございません。 (患者様のご満足度については、ここをクリックして、『患者様から頂いたお声』のページをご覧下さいませ。)

 このように、コーヌス テレスコープ システムは、単なる義歯の一方法にとどまらず、動揺歯やかなり悪くなってしまった歯を救済する手段としても、非常に有効な方法であることは間違いございません。

 歯科界でよく使われている用語で申し上げれば、『一口腔単位の包括的治療』あるいは『総合一貫治療』ということになるのでしょうが、虫歯や歯周病でかなり悪くなってしまったお口に対して、できるだけ歯を抜くことなく、総合的に治療し、長期の将来にわたって安定的に噛んでいただきながら、老化等でお体が弱られた時でもあまり大きな肉体的負担をお願いしないで済む、唯一の方法だと思っております。

個々の歯の治療が優先か、全体の安定が優先か。大学での教育の問題点

 大学での歯科医学は、多くの専門科に分かれています。
 義歯(入れ歯)の専門科、クラウン・ブリッジの専門科、歯内療法の専門科、歯周病の専門科、詰め物の専門科、予防の専門科、歯列矯正の専門科。その他、さまざまに細分化されていて、歯科学生はそれらの専門科の教官から、その専門科に対しての指導を受けます。

 その際、基本的な治療パターンとして、まず歯内療法や歯周病といった『基礎工事』にあたる治療を行い、次に『個々の歯に対する仕上げ』としての詰め物やクラウン・ブリッジの治療を行い、すべての『お膳立て』ができてから、『全体的な最終仕上げ』としての義歯(入れ歯)を装着するという手順を教えられます。

 こういったことから、まず個々の歯を落ち着けてから全体のことを考えるという発想がほとんどの歯科医師に染みついていて、先に全体のことを考える習慣があまりありませんし、そのせいもあってか、まず全体を落ち着けようという技術やノウハウは、ほとんど開発されていません。

 その反省もあってか、大学の付属病院には近年になって、『包括的治療』や『総合一貫治療』といったものを目指した『総合診療科』といった診療科が作られていることが多いのですが、そこのスタッフはほとんどが各専門科出身の歯科医師で構成されていますので、やはり個々の歯に先に目がいってしまうという傾向が強いようです。

 また、大学の付属病院である以上、学生に対する基本的な教育も考えざるを得ませんから、さまざまな経験や技術、知識が複合的に要求される『包括的治療』『総合一貫治療』といったものまで教え込む時間的な余裕がなく、なかなか根付かないのだろうと思っております。

 以上のようなことから、一般的な歯科医学のレベルとして、『包括的治療』や『総合一貫治療』は掛け声倒れに過ぎないことが多く、ほとんどの歯科医師は、大学で教えられた通りの基本的な治療パターンから抜け出せないのだろうと想像できます。

 簡単な内容ならば、そうした基本的な治療パターンでもうまくいきますし、そうあるべきだとも思います。

 しかし、『全体的にグラグラ・ガタガタ』といった難症例の患者様の場合には、先にまず全体を落ち着けるという発想で治療を行わなければ、日々の咬合力(こうごうりょく:噛む力)等によって歯はますます弱められていき、まだ治療が完了しないうちに、最初に仕上げた部分を抜かざるを得なくなったりもします。(ですので、そうならないように、『弱そうな歯は先に抜いておこう』という発想になりがちなのだろうと、私どもは考えております)

 ただ、一口に全体を落ち着けると言っても、難症例こそ、患者様の状態はさまざまに異なっています。複雑に入り組んだ応用問題を解いていくのと同じで、豊富な経験に基づいて、どこをどうすれば早期に安定的な状態を作り出せるのかを充分に考え、さまざまな治療を的確に施していく必要があります。

 その目的をうまく達成するための手段として、私ども森本歯科医院では、システムとしてのコーヌス テレスコープという考え方・技術を提唱させていただいているわけです。もちろん、コーヌステレスコープシステム以外の手段で、この目的をうまく達成できるならそれはそれでもかまわないのですが、『できるだけ抜歯をせず、患者様に充分にご満足いただけて、10年、20年、あるいはそれ以上とメンテナンスを重ねながら、老化や経年劣化に対応できる手段は』となれば、やはりコーヌス テレスコープ システムしか見当たらない、と考えております。

 歯科の学会や講習会、専門書、あるいはインターネット等で得られる情報でも、コーヌス テレスコープ義歯に関して、すべての『お膳立て』が整っている状態で『どのように作るのか』といった議論のみに終始していて、『どのようにお膳立てするのか』といった議論は、残念ながらほとんど見られません。

 その理由として、さまざまに異なっている難症例の患者様の治療経過をいちいち議論していても始まらないといった考えもあるのかもしれませんが、やはり『状態の悪い歯は先に抜いてしまって、比較的状態の良い歯だけを使っての最終仕上げ』といった『基本的な治療パターン』に無意識に支配されているからではないかと愚考いたしております。

 大学や模範となるべき先生方の考え方が上記のようなものである以上、世間一般の歯科治療がそれを上回ることは、ほとんどないはずです。
 『全部の歯を抜いて総義歯と言われた』『何本もの歯を抜いてインプラントと言われた』『あちこちガタガタで、手の施しようがないと言われた』

 このようなことを他院様で言われたとのことで、私ども森本歯科医院には、さまざまに歯がお悪い患者様が、たくさんお越しになります。

  1. 何本もの歯がグラグラの状態で、噛むたびに歯が動く患者様(歯周病)
  2. 部分入れ歯が合っていなくて、部分入れ歯がご自分の歯を動かしてしまっている患者様(義歯不適合)
  3. 虫歯や不適切な治療を放置していた結果、さらに悪化して、数多くの虫歯はもちろん、噛み合わせが狂ったり、歯並びまでが悪くなって、まともに噛めない状態になっている患者様(咬合崩壊)

 その他、ほとんどの歯に根尖病巣(詳細はここをクリック)があったりして、一つのお口の中に、上記のさまざまな悪い状態が複合・混在している患者様も、たくさんおられます。

 多数の歯が悪ければ、噛み合わせが悪くなっていることも多く、悪い部分をすべて治療するにはかなりの期間が必要で、やりやすい場所から治療していったとしても、他のすべての歯の治療が進んでいくまでの間に、最初に治療した歯で噛むことにならざるを得ず、噛む力(咬合力)によって、またその歯がグラついてきたりして、結局もたせることができなくなってきます。

 もし固定式の仮クラウンを作ってこのようなことを防いだとしても、固定式であるがゆえに歯磨き等が充分に行き届かず、また自浄性もなく、長い治療期間の間に歯周病がさらに悪化してしまって、やはり抜歯するしかない状態に追い込まれたりもします。

 まだ治療が完了もしないうちから、先に治療した部分が悪くなって抜歯する羽目になるのは歯科医師として最悪の不名誉なことですから、そうならないように、『弱い歯は先に抜いてしまえ』となるのだと思っています。

 以上のような理由から、他院様では、お口全体がガタガタ・グラグラの患者様が来院されたときに、とりあえず丈夫そうな歯だけは残すことにして、『弱そうな歯は全部抜いてしまえ』ということになって、『ほとんど全部の歯を抜くと言われた』『何本もの歯を抜いてインプラントと言われた』とおっしゃる多くの患者様が、私ども森本歯科医院にお越しいただいているのだろうと感じております。

 私ども森本歯科医院では、最初からギブアップして歯を抜くようなことは、できるだけ避けるべきだと思っていますし、コーヌス テレスコープ システムを使えば、『よく噛めて、見た目もよくて、長く使える』といったご要望にも、うまく沿うことができると思っております。

 まず歯を抜かないことを目指して、適切な技術で最大限の努力をしてみて、それでもダメだと分かってから抜くことにしたって、決して遅くはありません。そのような歯はどうせ簡単に抜けますし、傷の治りも早く、短期間で義歯をお入れできる状態になります。   (義歯を入れるために早めに歯を抜く必要性があるのは、私ども森本歯科医院の場合、ほとんど例外的と申し上げていいぐらい、まれなケースだけだと思っております。)

 幸いにして私ども森本歯科医院では、昭和60年に開業してすぐにコーヌスに挑戦させていただける機会をいただき、以来ずっと、コーヌス テレスコープの、システムとしての技術の蓄積に努めてまいりました。

 まだまだ未熟だとは思っておりますが、コーヌステレスコープ義歯の作製技術はもちろんのこと、長期メンテナンスにおける様々なテクニックに関してもかなりの経験を積ませていただき、多くのノウハウを蓄積させていただいていることも、また間違いのない事実だろう思っております。

 そういったさまざまな経験をもとにして考えたとき、難症例を好結果に結びつけるためには着脱式・可撤式の仮クラウン・仮義歯としてのコーヌステックは非常に効果的ですし、あまり丈夫でない歯を残す以上、あとあとのメンテナンスが極めて容易でバラエティーにも富んでいるコーヌス テレスコープ義歯が、きわめて有効な手段であると確信いたしております。

コーヌステックに対する、考え得るご質問・ご批判について

 着脱式・可撤式のコーヌステックという方法・考え方は、まだほとんどの歯科医師が取り入れていない方法ですので、一般の患者様からはもちろん、歯科医師からもご質問・ご批判を受けることがよくあります。

 そのご質問・ご批判は、ほとんど二つに集約されます。一つ目は、仮固定しないでも安定して噛めるのかということ。二つ目は、歯を削ったままの状態にしておいて着脱式で長期間使っていれば、その間に新たに虫歯が起きてこないのか、といったことです。

 一つ目に対しては、かなり安定します、というお答えになります。 これまでにもご説明しておりますように、着脱式・可撤式にする場合には、ある程度まとまった本数を確保してから行います。ですので、普段はもちろん、食事の際にも、不安定で脱落するようなことは、ほとんど考えられません。むしろ、コーヌステックに多くの歯を利用できるようになればなるほど、患者様はむしろ取りはずしに苦労するとおっしゃるほどで、はずしやすいように『リームーバブル ノブ(リムーバー)』という突起を付けることがほとんどです。(完成義歯としてのコーヌス テレスコープ義歯は、リムーバブル ノブがなければほとんどはずすことができませんので、必ずお付けいたします)

 ただ、コーヌステックは合成樹脂でできていますから、支台歯とすれて摩耗し、数カ月手を加えなければ、緩みは生じてきます。しかし、どんどん治療を進めている時は数カ月も手を加えないことなど滅多にありませんし、もしも緩くなってきたとおっしゃれば、その都度締めていきますから、実質的には患者様にご不自由をおかけすることはありません。また、ごく稀にコーヌステック自体が割れてくることがありますが、これも簡単に修理することができますし、割れた状態でもほとんどの場合はそのまま使っていただくことができますので、大きくご不自由をおかけすることはありません。

 二つ目の、コーヌステックで長期間使っているうちに新たな虫歯が発生しないのかというご批判に対しても、これまでまったく経験したことはございません、というお答えになります。

 難症例の場合はどうしても治療期間が長くなりがちで、1年以上かかることもございます。しかし、平成24年4月までで約600症例ほどのコーヌステレスコープ義歯を作製させていただいておりますが、いったん落ち着けてしまった歯が再び虫歯になったことはございません。これは、【コーヌステックが歯の保存に効力を発揮するメカニズム】でもお書きしましたように、充分に歯磨きができることに加えて、咀嚼することでミクロン単位の上下動が起き、それによる自浄作用がありますので、何らかの理由で1年以上とか治療を中断されたりしない限り、ほとんど虫歯が起きる可能性はないと考えております。

 むしろ、これまでにもご説明してまいりましたように、歯周病に対しては劇的な改善が望めますので、コーヌステックを着脱式でお使いいただくことは、得るものは非常に大きいけれども、失うものは見あたらない、といったことが私どもの実感でございます。

『コーヌス テレスコープ システム』という名前のこだわりについて

 コーヌス テレスコープ システムは、一般的には『コーヌス クローネ』と呼ばれていることが多いようです。
 呼び名などどうでもいいというのが、私どもの基本的な考えですが、しかし私ども森本歯科医院で行わせていただいているコーヌスに関しましては、やはり『コーヌス テレスコープ システム』という名前が適切であろうと思っております。

 私ども森本歯科医院では、これまでにもご説明させていただいておりますように、コーヌス テレスコープを、システムとしてとらえております。つまり、治療中にコーヌステックを使わせていただくことによって、ほとんど支障のない日常生活や食生活を営んでいただきながら、かなり弱った歯でも使えるようにしていくことができます。

 また、コーヌス テレスコープ義歯の完成後は、非常に快適に日常生活・食生活をお楽しみいただくことができますし、歯磨きがしやすいので、虫歯や歯周病の予防効果もあります。
 さらに、かなりの年月が経過して、老化その他でどこかが悪くなってきたとしても、コーヌス テレスコープ義歯の連結拡大や総義歯化などを行うことによって、柔軟に対応していくことができます。

 このように、コーヌス テレスコープ システムという系統だった考えかたは、治療中も、完成後も、長期使用後のメンテナンスにおいても非常に有効です。私どものような町中の開業歯科医は、患者様とのかなり長期のお付き合いが必要になってまいりますので、そういったシステマティックな考え方や技術を持っておくことが必要ですし、またそうでなければならないと思っております。

 一方、コーヌス クローネという呼び方は、コーヌスを単なる維持装置(入れ歯を固定しておくための装置。クラスプと同じとらえ方)としか考えていないように思われます。

 つまり、歯周病治療も、歯内療法・根管治療も、咬合の再構築もすべて終了し、義歯を入れる『お膳立て』がすべて出来上がってからの、単に義歯を作るだけの技術としてのみ、コーヌステレスコープ義歯をとらえているように感じております。(簡単な症例なら、ほとんど義歯作りだけを考えていればいい場合もあり、そういった場合には、コーヌス クローネという呼び方でもいいかもしれないと思っておりますが……)

 私ども森本歯科医院では、以上のようなことから、簡単な症例はともかく、難症例の場合には、コーヌス テレスコープをシステムとしてとらえるべきだ、という結論に達しております。ですので、コーヌスの正式名称は、やはり『コーヌス テレスコープ システム』であるべきだと考えております。

『コーヌステック』という呼び名について

 『コーヌス テック』とは本来、『コーヌス タイプの仮クラウン(テック:テンポラリークラウン、Temporary Crown)』という意味ですが、私ども森本歯科医院では、仮クラウンと旧義歯・仮義歯とを連結して用いることも多く、こうしたものも広い意味での着脱式・可撤式の仮クラウン・仮歯とみなして、コーヌス テックと呼んでおります。

 もっと専門的な用語としては、テックのことをプロビジョナル レストレーション(Provisional Restoration:予見的修復)と言われる先生もおられるので、それに従えば、『コーヌスタイプのプロビジョナル レストレーション』という言い方もできるのかもしれませんが、平成24年4月現在、百科事典サイトのウィキペディアでは、『テンポラリー・クラウン』は出ていますが、『プロビジョナル・レストレーション』は出ていませんので、テンポラリー・クラウン(テック)と呼ぶほうが、一般的なのだろうと思われます。

 また、『コーヌスタイプのプロビジョナル レストレーション』では呼び名が長くなりますので、私ども森本歯科医院では、呼びやすい『コーヌス テック』の方がやはりベターであろうと思っております。(プロビジョナルレストレーションを略して『プロビ』と言われる先生もおられますので、『コーヌス プロビ』と呼ぶべきだという意見もあるかもしれません。もしもそれが一般的な呼び名になるのなら、それはそれでもかまいませんが……)

 じつは、『コーヌステック』という呼び方は、たぶん私ども森本歯科医院の造語です。平成24年4月現在、ウィキペディアには掲載されておりませんし、Googleで検索しても、一つの単語としての『コーヌステック』はヒットしてきません。専門誌でも歯科医学の学会等でも、『コーヌステック』という言い方を聞いたことはありません。ですが、『コーヌス』も『テック』も、歯科医師なら誰でも知っている用語ですので、『コーヌステック』という言葉の意味は、歯科関係者には容易に想像がつくはずです。

 以上が私の考えなのですが、平成27年頃になって、日本顎咬合学会でのポスター発表や論文発表の機会を頂いたことから、学会等の場では『コーヌスタイプのプロビジョナルレストレーション』や『コーヌスプロビ』といった用語を使うようになりました。

 講演の場などでは、充分に時間がありますので、少し笑いをとる意味でも、『コーヌステック』という呼び方にこだわっていることを説明したりもできるのですが、学会発表ではそんな時間的・スペース的な余裕もありませんので、『標準的な、誤解の起きにくい呼び名』を使う必要があるからです。

 もちろん、普段は『コーヌステック』という呼び方しかしませんし、ある大学の教授は、『森本先生が考え出した用語だから、それにこだわっていい』と言って下さったりするのですが、やはり、TPOに応じて使い分けることも必要だろうという思いから、今では、『コーヌスタイプのプロビジョナルレストレーション』『コーヌスプロビ』という呼び方をするべき状況では、それに従おうと思っております。

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