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根管治療

  いつも違和感がある……。噛むと痛い……。ときどき歯ぐきが腫れる……。そういった歯には、多くの場合、根尖病巣(こんせんびょうそう)があります。レントゲンで見れば、歯の根の先端部に、病巣の黒い影が映ります。

 この病変の本質は、歯の根の部分の神経が入っていた空洞(根管:こんかん)に、細菌が繁殖していることにあります。歯の神経(歯髄)を取り除いたあと、根管を緊密に閉鎖できなかったこと等によって細菌が繁殖し、その細菌が根の先端付近の組織を刺激。炎症を起こさせて骨を溶かしてしまい、レントゲンでは薄黒く映るのです。炎症が強い場合には、歯肉を通して膿を逃がす穴(瘻孔:ろうこう:フィステル)ができることもあります。治療法は、根管の内部を徹底的に清掃し、汚染された内壁の表層も削除してなめらかにし、細菌が繁殖するスペースを残さないように、緊密に根管を閉鎖することで(根管充填:こんかんじゅうてん)、骨も自然に再生してきます。根管の形や大きさによって、根管充填の方法を使い分けます。

側方加圧法垂直加圧法
(オピアン法)
歯根端切除法
 横方向に加圧しながら根管を閉鎖する方法。根管充填材が根尖外に漏れない、無難な方法。日常、もっともよく使います。  根尖の方向に加圧しながら根管を閉鎖する方法。比較的難しい症例に使用します。  かなり難しい場合に使用する手術の一種です。詳しくは、『再植による歯根端切除』

症例1 : 26歳女性。上顎右側5番の歯(第二小臼歯)

治療前のレントゲン写真

 『噛むと痛いし、何となく重苦しい感じがする』という症状があり、レントゲン写真でも、不完全な根管充填と、それによって起きた根尖病巣が確認できました。

根管充填時のレントゲン写真

 根管内にあった根管充填材や腐敗物を除去し、内壁の表層を少し削除してなめらかにし、清掃。2週間ほど経過を見、症状が消えたことを確認して、側方加圧法で緊密に根管を閉鎖。その後、土台を作り、メタルボンドを装着させていただきました。

9カ月後のレントゲン写真

 根管治療した歯の根尖部の黒い影は完全に消え、骨が充分に再生していることがうかがえます。

症例2 : 40歳男性。上顎右側4番の歯(第一小臼歯)

治療前のレントゲン写真

 『噛むと響く』という症状があり、レントゲン写真でも、不充分な根管充填と、根尖病巣が確認できました。

根管充填時のレントゲン写真

 症例1と同様、根管内にあった根管充填材や腐敗物を除去し、内壁の表層を少し削除してなめらかにし、清掃。2週間ほど経過を見、症状が消えたことを確認して、側方加圧法で緊密に根管を閉鎖。その後、土台を作り、メタルボンドを装着させていただきました。

4年10カ月後のレントゲン写真

 根管治療した歯の根尖部の黒い影は完全に消え、骨が充分に再生していることがうかがえます。

症例3 : 32歳男性。下顎右側5番・6番の歯(第二小臼歯・第一大臼歯)

治療前のレントゲン写真

 『噛むと痛いし、ずっと違和感があった』という症状に加えて、歯ぐきが腫れてきたために来院されました。レントゲン写真では、5番(第二小臼歯)と6番(第一大臼歯)の歯に、不充分な根管充填と、比較的大きめの根尖病巣(黒い影)が確認できました。
 また、通常の大臼歯の根管は3本ですが、この患者様の6番(第一大臼歯)の根管は、4本あり、未処置の第4根管が原因となっている根尖病巣も、わずかですが、見えています。(大きな方の赤丸の中央左下に、ポツンと、小さな黒い影が見えています)症例1・2と同様に、根管清掃ののち、根管充填しました。

2年5カ月後のレントゲン写真

 どちらの歯も、金属冠をおかぶせしてありましたが、経過は良好です。 特に、大きな赤丸で示した6番(第一大臼歯)の歯は第4根管まで、うまく根管充填ができていて、黒い影は完全になくなり、骨が充分に再生していることが、うかがえます。 この歯には4本の根管があるのですが、前方の2本の根管(画面右側)は、重なり合って映るため、レントゲンでは1本に見えます。(下顎の大臼歯はほとんどの場合、そのように映ります) 下顎の6番の歯が4根管である確率は、男性では約30%と言われています。女性の場合は、もっと低い確率です。

症例4 : 34歳女性。下顎左側4番・5番の歯(第一小臼歯・第二小臼歯)

治療前の、パノラマという、アゴ全体を見ることができるレントゲン写真

 小さな赤丸で示した4番の歯(第一小臼歯)には、かなり大きな虫歯があり、大きな赤丸で示した5番の歯(第二小臼歯)には、大きな根尖病巣があります。どちらも、根管治療が必要です。

2年4カ月後の状態

 5番の歯の根尖部にあった黒い影は完全に消え、どちらの歯にも、まったく異常は認められず、症状もまったくありません。

治療前。細部までよく見えるデンタルサイズでのレントゲン写真

 小さな赤丸の4番の歯(第一小臼歯)は、虫歯がかなり大きく、完全に歯の神経(歯髄:しずい)まで達していて、抜髄(ばつずい)が必要。
 大きな赤丸の5番の歯(第二小臼歯)は、根管充填が不充分で、ある程度大きな病巣があり、根の先端が大きく曲がっていて、かなり難しい状態でした。

治療途中のレントゲン写真

 5番は根の先端が曲がっているので、治療器具がスムーズに奥まで入らず、現状や方向を知るために写しました。
 このあと、治療器具が根尖まで到達。根管内の腐敗物を除去して、内壁の表層を少し削ってなめらかにし、内部を充分に清掃しました。

根管充填時のレントゲン写真

 根管を清掃後、2週間ほど経過を観察。どちらの歯にも症状がないことを確認した上で、根管を閉鎖。5番が難しい歯であったことから、どちらも垂直加圧法(オピアン法)を使いました。
 なお、6番の歯(第一大臼歯)は、レントゲンに写らない材質(スーパーボンド?)で、すでに根管充填されていて、レントゲン的にも問題がなかったので、そのまま使う方針としました。

2年4カ月後のレントゲン写真

 延長ブリッジをお入れしてありましたが、経過は良好で、どの歯にも症状はなく、根尖部の異常は見られません。

根管治療の詳しい解説

 根管治療は、歯科治療の中で、非常に重要な位置を占めています。コーヌステレスコープにせよ、メタルボンドにせよ、金属冠にせよ、少し手のこんだ治療には、必ずと言っていいほど、根管治療が基礎治療として関係してくるからです。

 歯科医師の中には、根管治療は苦手だと言う者もいます。手間がかかる割に、うまくいかないことも多く、治療後に患者様が、違和感や痛みを訴えてこられるケースは、ほとんどの場合、根管治療が不充分だったことが原因しているからです。(咬合面が平坦な場合にも、同様の症状が出ることがありますが、はっきりとした症状がある場合は、根管治療に原因していることがほとんどです。平坦な咬合面については、こちらをご覧下さい

 しかし私は、根管治療が、わりと好きです。論理に基づいた手法で丁寧にやりさえすれば、必ずうまくいくからです。少なくとも、不快な症状が出るような結果は招かないですませられる、と思っております。

 じつは、根管治療は、決してむずかしいものではないのです。私ども森本歯科医院では、根尖病巣や、根管治療の不具合だけで、歯をお抜きすることは、ほとんどまったくありません。(お抜きする原因のほとんどは、重篤な歯周病か、歯根の破折ですが、歯根の破折に対しては、近い将来、かなり改善できる見通しが立っております)

 根管治療のキーワードは、デッドスペース(dead space:死腔:しくう)の排除、です。つまり、細菌が繁殖できるスペースを完全に封鎖してしまえば、細菌が繁殖することはなく、炎症も起きません。根管の奇形や根尖部が破壊されているケースに対しては、私ども森本歯科医院では歯根端切除を行いますから、重篤な歯周病や歯の破折が絡んでいなければ、ほぼ確実に治療できると思っております。(歯根端切除に関しては、こちらをご覧下さい。

 根管治療の本質は、次の数式で表現できると思っております。

 つまり、根尖病巣が起きる起きない、あるいはその炎症の強さは、根管内にいる細菌の悪質さとデッドスペースの大きさ(すなわち悪質な細菌の量)に比例し、ご本人の免疫力の強さに反比例します。

 この3つの要素の中で、歯科医師が変えられるのは、デッドスペースだけです。細菌の質をコントロールしたり、完全な無菌を目指すならば、大病院の手術室以上の研究施設並みの設備が必要で、仮に高度な施設で高度な滅菌をしていたとしても、1匹でも細菌が残っていれば、いずれそれが増殖してきます。また免疫力の強さは、ご本人の遺伝的要素はもちろん、生活習慣や、栄養状態に関係していることですので、とても歯科医師がコントロールできることではありません。

 結局、根管内に多少の細菌がいたとしても、デッドスペースができないように根管をできるだけ完全に充填閉鎖して、細菌が繁殖する場をなくしてしまう、ということが、現実的な解決法になります。

 根管内のデッドスペースの要素としては、次のようなものがあります。これをいかにしてゼロに近づけていくのかが、歯科医師としての腕の見せどころ、となります。

 

premolar-vital-caries 大きな虫歯があったり、治療の必要上、歯の神経(歯髄)を取る場合。 麻酔をして神経を取りますが、もともと細菌が繁殖していないので、緊密な閉鎖は、比較的容易です。

premolar-fistel-inray 虫歯が大きかったりして、治療後、歯髄が自然死してしまった場合。 根管が未処置でデッドスペースが大きいので、細菌の量も多く、大きな病巣ができることや、大きく腫れることがあります。

premolar-non-vital-1 すでに根管充填してあるものの、根管充填が短く、デッドスペースが残ってしまっている場合。 こういったケースが、一番多く見受けられます。 レントゲンでの診断も容易です。

premolar-non-vital-2 すでに根管充填してあるものの、根管充填材が細く、根管内壁との間にデッドスペースのあるもの。 レントゲンでは、そこそこの根管充填ができているように見えていても、根尖病巣があるようなケースです。

premolar-non-vital-3 根管長の測定ミス等で、根管充填材が先端から突き出していて、充填材と根管内壁との間にデッドスペースがあるもの。 通常の根管治療では治療が困難で、歯根端切除の対象となります。
詳しくは、『再植による歯根端切除』

endo-sokushi 歯髄の枝分かれ(側枝:そくし)があって、それがある程度太くて、病巣の原因となっている場合も、歯根端切除の対象となります。

ENDO-konsetu1 根尖部の形が壊れていたり太い側枝があるような、かなり難しい場合に使用する手術の一種です。詳しくは、『再植による歯根端切除』

具体的な治療方法

 まず、上写真の電気的根管長測定器(EMR:Electric Measuring of Root canal length)で、歯の根の長さを、電気的に測定します。その長さにもとづいて、根管内を掃除していきます。内部の汚れがひどい場合には、中央の写真のように、ヘドロのようなものが出てくることもあります。また、根管充填材と根管内壁との隙間があるものは、下の写真のように、汚染された根管充填材が、すっぽりと抜け出てくることがあります。

根管内壁

 未処置の根管内壁を細かく見ると、細かな凹凸があり、これをこのまま残しておくと、細菌の繁殖が可能なデッドスペースになってしまいます。根管内の汚れを落としながら、内壁の表層を削ることによって、凹凸をなくして表面をなめらかにし、デッドスペースができる可能性を少なくしていきます(表面に小さな穴が見えるのは、象牙細管という、象牙質が持つ細い管です)。 

 また、根管の断面は必ずしも円形ではなく、だ円形、U字形等、さまざまな形があります。さらに、歯根自体が曲がっているものもありますので、それに合わせた根管充填が必要です。私ども森本歯科医院では、簡単な形の場合は側方加圧法で、複雑な形の場合は垂直加圧法(オピアン法)で、根管充填を行っています。

根管の断面

 

側方加圧法

ENDO-lateral

 横方向に加圧しながら根管を閉鎖する方法で、根管充填材が根尖外に漏れない、無難な方法です。根管断面がほぼ丸形の歯に適していて、日常、もっともよく使います。

垂直加圧法(オピアン法)

ENDO-opian

 根尖の方向に加圧しながら根管を閉鎖する方法です。根管断面が丸形でなかったり、根が曲がっていたりする、比較的難しい症例に使用します。

歯根端切除法

ENDO-konsetu

 根尖部の形が壊れていたり太い側枝があるような、かなり難しい場合に使用する手術の一種です。詳しくは、『再植による歯根端切除』

 

 

 

 

 根管治療は、ある意味、非常にむずかしい治療です。それぞれの歯によって、さまざまな根管の形があるにもかかわらず、その空間をできるだけ完璧に閉鎖しなければならないからです。ある研究によると、歯科医師がどれだけがんばっても、20%~数%のデッドスペースが残ってしまうそうです。事実、大臼歯の第4根管などは、細くて曲がっている場合が多いため、完全に処置できないこともあります。
 しかし、完全に処置できない根管というのは、非常に細いという意味ですので、スペースとしてはかなり小さく、上でもお書きした

の数式での分子が小さくなりますので、分母である『免疫力の強さ』が普通通りに強ければ、根尖病巣はほとんど起きることはありません。

 レントゲン的にはっきりとした根尖病巣があったり、痛みや違和感等の症状がある場合は、必ずどこかに、ある程度大きなデッドスペースがあります。それさえ抑えれば、まず間違いなく、好結果に導くことができます。

 そしてもし、有害なデッドスペースをどうしても処置できない場合でも、私ども森本歯科医院では、『再植による歯根端切除』という『切り札』がありますので、根尖病巣だけが原因での抜歯は、まずありません。

 根管治療は、素人の方には、かなりわかりにくい治療です。しかし、好ましい治療結果を得るためには、きわめて重要な作業です。私ども森本歯科医院が、治療後のアンケート調査で、非常にありがたいご評価をいただいているのも、実はコーヌステレスコープやメタルボンド、金属冠等の巧拙よりも、基礎治療である根管治療を丁寧に確実に行うように心がけているからだろうと思っております。(アンケート調査の結果は、『患者様から頂いたお声』をご覧下さい

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